割り勘とホフステードモデル 

<<番外編>>
 

こんにちは。 さて、いきなりですが、先日7 回シリーズでお届けした首記エッセイの第1 回の中で、以下の様な記述があったのを覚えていらっしゃるでしょうか?

 

『例えば、中国人は基本的に割り勘というのはまずやらない(※最近は少々事情が異なる。)。食事に誘った人、お金に余裕のある人等々、無論、何となく持ち回りで誰かが払うって事はあるけど、必ずしも厳密に今回は私だから次回はあなたって感じではなく、なんとなく(或いは先を争って)誰かが払う。場合によっては同じ人ばかり払っている。』実は前々から、中国でも最近ではかなり『割り勘』が一般的になってきたという話は耳にしていたものの、今の中国の実態をよく理解していなかったので、これを機に、自身の中国人脈を頼りにヒアリング調査を行った結果と考察を報告します。

但し、今回の調査では、残念ながらそのサンプル数や被験者の出身地域等が限定されている為、あくまで私の仮説に毛の生えた程度のものとしてご理解、お取り扱い願います。
なお、既に先行研究があるかもしれませんが、『関係(グアンシー)』を構築する上での他の重要要素(モノ、コネ、情報)も含めて、全国的に意識&行動様式調査を広く実施すれば、世代間の変容を正確に把握する事が出来、中長期
的な中国人・中国社会の変容の方向性を占う貴重なデータが収集出来るものと考えます。

 

 

1. ヒアリング内容

 

●質問項目① : 同性の上下関係のない友達同士で食事に行く際の支払い方法は?
 A) 割り勘(中国語ではAA 制) B)何となく誰か一人が払う C) 持ち回りで誰か一人が払う。

 

<補足>
中国の人間関係における、上司や年長者との間での『権力格差の高さ』、及び女性は保護すべき者或いは従うべき者とする『男性優位社会』の要素による影響を排除し、あくまで自らと親密且つフラットな関係性を結んでいる友人(≒上下関係のない『内集団』)との食事時の支払い時の行動パターンのみを抽出する為、上述の質問内容とした。
 

質問項目② : 男女(二人きりの場合、複数の場合両方含む)の友達同士で食事に行く際の支払い方法は?
 A) 割り勘(中国語ではAA 制) B)男性が払う C) その他

 

<補足>
上述の『男性優位社会』の変化の予兆の有無を確認する為に付加したもの。

 

 

2. ヒアリング結果

 

回答者については、各世代毎の変化の有無を確認する為、ほぼ10年毎、60年代後半生まれ、70年代後半生まれ、90 年生まれ、2000年前後生まれと4 カテゴリーの対象者に対して上記のヒアリングを実施した。
(注:但し、2000年前後生まれ以外は、各世代毎のヒアリング実施者は各々1 名のみ。)

 

●回答者① :1965 年生まれ 男性 上海在住 【上海生まれ上海育ち】

  1.  同性同士の食事の場合:
    何となく誰かが払う。基本的に持ち回りだが、今日は私だから次回はあなたという具合の厳密な持ち回りではない。(但し、いつも払わない友人がいたら(そんな友人はいないが)友人関係は壊れる。) なお大人数の場合はあまりに経済的負担が大きい為割り勘とするのが一般的。
  2. 男女間の食事の場合:
    いずれのケースでも必ず男性が支払う
 

●回答者② :1978 年生まれ 女性 上海在住 【蘇州生まれ上海育ち】

  • 同性同士の食事の場合:
    持ち回り(※)で支払う比較的厳密な意味での持ち回り。実質的には割り勘。)。(←補足:但し、同僚同士での食事の場合は割り勘。)(※ 今日は私だから次回はあなたという具合の比較的厳密な意味での持ち回り。実質的には割り勘但し、短期間でも、友人間での『貸し借り関係』が生じる点が割り勘とは異なる。
  •  男女間の食事の場合;
    いずれのケースでも必ず男性が支払う
 

●回答者③ :1990 年生まれ 女性 東京在住 【蘇州生まれ蘇州育ち】

  1.  同性同士の食事の場合:
    基本的に割り勘(自分で稼いだカネを自分の為に使う)
  2.  男女間の食事の場合:
    割り勘が多い(←但し、学生時代のケース)
 

●回答者群(21名)④ :2000 年前後生まれ 男性&女性 東京在住(日本語学校学生)

【※出身地域はバラバラだが、東北や内陸部出身者が過半数】

  1. 同性同士の食事の場合:
    約80%が持ち回り(※)で支払う(※)と回答。(←但し、割り勘についても全く抵抗なしと回答。)
    (※ 今日は私だから次回はあなたという具合の比較的厳密な意味での持ち回り。実質的には割り勘。但し、短期間でも、友人間での『貸し借り関係』が生じる点が割り勘とは異なる。)。
    約20%が割り勘と回答。
  2. 男女間の食事の場合:
    基本的に男性が支払う。(←但し関係が浅い場合。深い関係の場合(彼氏彼女?)は特に決まりはなく女性が支払う場合もあり。)
 

※学生の出身地域詳細

  • 東北&北部:遼寧省:3 名、黒竜江省:1、山東省:2 名
  • 内陸部(南部):江西省:2 名、湖南省:1 名、四川省:1 名、広西自治区:1 名
  • 内陸部(北部):寧夏自治区:1 名 甘粛省:1 名 山西省:1 名、河南省:1 名
  • 沿海部:浙江省:2 名、江蘇省:2 名、上海市:1 名、福建省:1 名
 

 

3.ヒアリング結果要約&考察

 

●質問項目① : 同性の上下関係のない友達同士で食事に行く際の支払い方法は?

 
  1. 回答者①~④に至るまで基本的には、現在も『持ち回り』が一般的という結果となったが、世代を追う毎に厳密な持ち回りでの支払いを志向する『実質的には割り勘』、或いは『名実共に割り勘』を好む傾向にシフトしてきている傾向は明らか。

  2. 回答者③と回答者④では、一見、上記の傾向が逆戻りしている様に見えるが、これは、あくまで回答者③の出身地が蘇州【上海近郊】である事が、この現象の原因の一つである可能性有り(*)。 なお、最も若い世代の回答者④で『持ち回り』と回答した80%の人の中で、上海近郊(浙江省、江蘇省)の都市部の出身者はほぼ皆無。これに対し、『割り勘』と回答した20%の人の中では、他の地方の出身者も多く含まれるものの、こちらには同上海近郊の都市部の出身者が比較的多く含まれていた。
    <*補足>
    中国では、都市と農村間、及び地方により人々の気質が大きく異なる。その中でも、華東の沿海部(浙江省、江蘇省)、特に上海を含むその周辺の都市部では、他地方に比べれば人間関係にドライな傾向有り。(←無論、回答者③サンプル数は1 名のみ故、筆者の推測の域を出ず。)

  3. 本結果から、いわゆる『関係(グアンシー)』を形成する為の基盤となる四要素、『カネ、モノ、コネ、情報の相互依存関係』の内、少なくとも『カネ』の部分が徐々に機能しなくなりつつある現象が伺える。つまり、これまで、極めて集団主義的気質を持つとされた中国人の人間関係において個人主義的気質(≒他社と親密な相互依存関係を結ぶ事に抵抗を感じる)の兆候が表れてきている。

  4. また本結果から、『持ち回り』ではなく、『割り勘』での支払い形態が現れたのは、回答者②と回答者③の間の世代、つまりされた1979 年(一人っ子政策導入年)~1989 年の間の世代であると推測される。中国人における兄弟(姉妹)間の関係は、親子間の結びつきに加え、彼らのその後の人生における『関係(グアンシー)』拡張過程における最も基本的な基盤である。仮に、この『一人っ子世代』(=兄弟(姉妹)消滅世代)になって初めて『割り勘』形態の発生&一般化している事が証明されるならば、一人っ子政策導入が中国人の気質、更に中長期的には中国社会そのものを (個人主義的傾向を持った社会へと) 変容させ得る極めて重大な政策であった事の証明ともなる。

    <補足>
    2015 年以降、『一人っ子政策』は本格的に廃止、『二人っ子政策』に転換したものの、政府の思惑通りには出生率は伸長して
    いないのが実情。
 

●質問項目② : 男女(二人きりの場合、複数の場合両方含む)の友達同士で食事に行く際の支払い方法は?

 

回答者③、回答者④の世代では、男女間の食事時の支払いについても、女性も支払うケースも緩やかな増加傾向にあるが、現在も基本的に男性が全て支払うというケースが一般的であり、上述の同性間の友人同士の場合に比べて変化は小さい。中国社会は、中華人民共和国成立後、他の一般的な社会主義国と同様に女性の解放、男女平等が制度的にも確立され、日本に比べて一貫して女性の社会進出率も高い。よって、表面的には中国の方が日本よりも男女同権社会と見えるも、内面での『男性優位』の思考は、実はそれ程変わっていないという事を示す一例とも言えるであろう。(日本の場合も一般的に男性支払い負担が大きい傾向にあるが、中国の様に、極端に男性の支払い負担は高くはない。)

 
以上