昭和の「普通」は令和の「不適切!?」 時代を経て変わるものと変わらないものをCQで考える

人気の民放のテレビドラマ「不適切にもほどがある!」(ふてほど)が3月末に最終回を迎えた。世帯平均視聴率7.9%を記録し、「ふてほどロス」も聞こえてくるほどだ。昭和と令和の文化の違いについて、CQで考えてみたい。

 

「ふてほど」から見える昭和と令和の文化

昭和に生まれバブル時代に青春を謳歌した私。ドラマを見ながら(良くも悪くも)様々な昭和の記憶が蘇ってきた。
ドラマでは、各所で次のようなテロップが毎回恒例で出る。

『この作品には、不適切な台詞や喫煙シーンが含まれていますが、時代による言語表現や文化・風俗の変遷を描く本ドラマの特性に鑑み、当時の表現をあえて使用して放送します』

思えば、あの時代は今では「信じられないこと」だらけだった。

バスやタクシーの座席には灰皿が備え付けられ、教員室では先生たちが、家庭の食卓ではお父さんたちが「普通に」喫煙していた。

夏は運動中に水分補給すると「しんどくなる」と皆本気で信じていたし、不良少年が聖子ちゃんカットのスケバンを原チャリの後ろに乗せて校内を暴走し、教師がそれを追いかけるといった風景もたまに見かけた。

そういえば小学校の担任は休憩時間に教師机からウィスキーを取り出してちびちび飲んでいたなぁ・・・ある意味、おおらかで「ワイルド」な時代だった。

ドラマでは1986年(昭和61年)から2024年(令和6年)にタイムスリップした主人公の体育教師が、その「不適切」な言動で令和の社会に波紋を広げる一方で、令和の過剰なコンプライアンスぶりも描き出される。

荒唐無稽なストーリーながら、昭和と令和の2つの時代が鋭く風刺され、そして毎回コミカルなミュージカル仕立てで「話し合いましょう~♪」と関係者の対話を呼びかける。

2つの時代を生きる者としては、毎回くすっと笑いつつ、40年という時間の流れが生み出す文化の変遷を考えさせられる作品だった。

文化の変化ー変わるものと変わらないもの

オランダの社会学者ヘールト・ホフステードは、文化を玉ねぎモデルで説明した。そして玉ねぎの表面に近い層は時代に応じて変化するが、玉ねぎの核にあたる価値観の部分は非常にゆっくりしか変化せず、国同士の相対的な位置関係を示す文化次元のスコアは時を越えて安定していると述べた(2010)。

画像
「多文化世界【原書第3版】」G.Hofstede, et.al

 

玉ねぎの1番外側の層である「シンボル」は、同じ文化の人が共有する特別な意味を持つ言葉、しぐさ、物などである。例えば「煙草を吸う」という行為は40年前の日本では今と異なった受け止め方をされていた。バブルの時代、ワンレン(当時流行した髪型)のキャリアウーマンが紫煙をくゆらす姿は「クール」であった。しかし今や喫煙率は大きく下がり、喫煙は世界的に「煙たがられる」行為となっている。

2番目の「ヒーロー」とは、その文化の人々の行動のモデルとされる人物である。高度成長期の日本では努力・根性がヒーローの特徴だった。「24時間戦えますか」というコピーと共に企業戦士がロールモデル化された。子ども向けのテレビアニメでも「スポーツ根性もの」が幅を利かせていた。私も子ども時代、アニメの歌詞を聞いて「スポーツ選手は『血の汗を流して』るんだ!」と本気で思っていた。しかしワークライフバランスが重視される現代では「ブラック」な働き方は嫌悪され、パワハラを帯びた指導はNGである。

3番目の「儀礼」とは、その文化圏の人々にとってなくてはならない集団的な行為のことである。コロナの影響で在宅勤務や仕事のオンライン化が一気に進んだ。マネージメント、会議、意思決定、評価の仕方など仕事全般の方法が大きく変わった。同時にタイパ(タイムパフォーマンス)や効率性がより求められるようになり、儀礼は大きく変化した。

ホフステードは「シンボル」「ヒーロー」「儀礼」の3つの層をまとめて「慣行」と呼んでいる。これらは文化の中で「変わるもの」である。

変わらないものー文化の価値観

ねぎの核である「価値観」は私たちが幼い頃に社会化を通して身に着ける文化のコアになる部分である。価値観は表層にある3つの「慣行」と異なり、外から観察したり自覚することが難しく、非常に変わりにくい。ホフステードの6つの文化次元はまさにこの部分を可視化している。

文化の「価値観」が40年経っても大きくは変わらないことは、度重なる研究によって検証されている。世界全体の価値観の動向は、より個人主義的に、より権力格差が低く(平等主義的に)、充足的になっており、同じ文化の中でも世代によって価値観の傾向が異なるという研究もある。しかし全体が変わっても、国同士の相対的なポジション(つまり文化次元のスコア)は変わっていないという。

画像
ホフステードCWQ Country Comparison Dashboardによる個人主義の文化次元のチャート

 

つまり日本は40年前も今も、アメリカに比べると常に集団主義的であり、中国に比べると常に個人主義的である。また日本のZ世代とアメリカ・中国のZ世代を比較しても相対的なスコアは安定している。文化の「価値観」はまるで地球の「重力」のような物だと言える。

 

変わらないものを知り、変わる部分をアップデートする

技術は進化し、社会の慣行は変化する。
2023年「小学生なりたい職業ランキング」(株式会社ベネッセコーポレーション)の1位は2年連続で「ユーチューバ―」だった。男子児童の「なりたい職業」4位には「ゲームクリエイター」5位には「Eスポーツプレイヤー」がランクインした。いずれも40年前には存在しなかった職業だ。

文化の玉ねぎの表層部分は時代を反映して刻々と変わっていく。令和の時代の「普通」がいつの日か「不適切」とされ、ドラマのネタになる日も来るだろう。

私たちは「変わるもの」と「変わらないもの」を知ることが大切だ。
変わらない文化を自己認識しながら変わる文化をアップデートしていこう。そして時代に適応し、異なる人達と対話しながら協働していこう。

CQラボ 田代礼子

 

一般社団法人CQラボは、ホフステードCWQの日本オフィシャルパートナーとして、カルチャーに関してトータルな学びを提供しています。CQ®(Cultural Intelligence)とは…「様々な文化的背景の中で、効果的に協働し成果を出す力」のこと。CQは21世紀を生き抜く本質的なスキルです。Googleやスターバックス、コカコーラ、米軍、ハーバード大学、英国のNHS(​​​​国民保険サービス)など、世界のトップ企業や政府/教育機関がCQ研修を取り入れ、活用されています。

こちらからCQラボ代表理事 宮森千嘉子の異文化理解についての講座を1週間無料で視聴できます。
1分でわかる「CQ異文化理解」動画はこちら