「そんな美しい方とは言わない」発言をCQ(文化の知性)で見つめる その③

「俺たちから見てても、このおばさんやるねえと思った」
「そんな美しい方とは言わない」
与党の副総裁が講演で、女性である外相の容姿に言及したことが波紋を広げている。

「おばさん」世代の私も発言に対して心の「ざわめき」を覚えた1人であるが、この対立構造から抜け出して互いに共創する道を歩めないか、CQを使ってそのヒントを考えてみたいと思った。

日本のジェンダーをめぐる状況を整理した前回に引き続き、今回はCQを使って「違いと共創」するためのヒントを模索したいと思う。

視点転換で「敵のイメージ」を溶かす

私たちは自分と異なる価値観に基づく発言やふるまいに接したとき、反射的に「ありえない」「間違っている」「正さなければ」という防御反応が起きやすい。

特に槍玉に挙がった副総裁は名門一族出身で首相など要職を歴任。資産も影響力も(オリンピック出場経験まで)ある、いわばスーパーエリートで「政界ドン」とも呼ばれている。同時にこれまで失言も多く、いわば「日本の(男性中心の)古い体制」を象徴する存在として「敵のイメージ」を膨らませやすい対象ともいえる。

「おばさん」と名指しされた世代である私も当初は心がざわついた。「だから日本の政治はダメなんだ!」と思わず反応しそうになる自分がいた。しかしCQの英知を思い出し、いったん落ち着いてくだんの副総裁の政治思想や経歴をひも解いてみるといくつか発見があった。

 

「新聞を見てもテレビを観ても(中略)格差社会、少子化、中高年の自殺、不況による連鎖倒産などの痛ましい話が溢れています。しかしよく目を開いてみると、世の中、よい話もいっぱいあるんじゃないですか。(中略)」

イギリスBBC放送のアンケートで「世界に最もよい影響を与えている国」として日本が2年連続1位だったことについて述べる中で、日本の法務省から派遣された3人の女性司法官がカンボジア政府の依頼で民法を作り上げたことに触れ、

「こういう人たちの人知れぬ活躍によって、日本というブランドが高く評価されているんです。『近頃の若いヤツは…』とシタリ顔で偉そうに言うオッサンたちこをが問題だと思ったりします」

(麻生太郎 オフィシャルウェブサイト 2008年1月号「とてつもない日本」)

 

中でも興味深かったのは、副総裁が折に触れて日本のポジティブな面を強調し、女性の活躍をもっと世間が認識するよう呼びかけていることだ。
今回の発言の意図もおそらく外相に対する大きな期待や女性へのエールを表明したものであろう。(いくつか事実誤認があったとはいえ)

 

対立を越えて共創へ:共にアップデートする

私たちは自分と相いれない考えに出合うと「正しい、正しくない」の判断に飛びつきやすい。そして相手の優位性が高ければ高いほど、まるでモンスターのような「敵のイメージ」を膨らませやすい。

しかし敢えて一呼吸入れて「どうしてこんなことを言ったのだろう」と相手の視点に立って相手の持つ深いニーズに繋がろうとすると、不思議にモンスターのように感じられていた相手の「敵のイメージ」がするすると溶けはじめ、ときには相手の「無防備さ」すら見えてくることはないだろうか。

相手の視点に立つということは、相手の価値観に「同意する」ということとは異なる。私たちは自分とは異なる考え方や行動に出合ったとき、どう反応するかを選ぶことができる。

相手を拒絶し対立構造を作り出すこともできるし、対立や葛藤を「当たり前のもの」と捉え、自分が大切にしていることを辛抱強く相手に伝えながら相手と関係性を築き、古いやり方や価値観をより時代に沿ったものに共にアップデートすることができる。

当初は「おばさん」と名指しされた気がして心がざわつき、日本のジェンダーをめぐる状況に絶望しかけた私だった。しかしグローバル化を背景に不確実性が加速する中で、私たちが共存するための新たなヒントをCQが思い出させてくれた気がしている。

CQラボ
田代礼子

 

 

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