「そんな美しい方とは言わない」発言をCQ(文化の知性)で見つめる その②

「俺たちから見てても、このおばさんやるねえと思った」
「そんな美しい方とは言わない」
与党の副総裁が講演で、女性である外相の容姿に言及したことが波紋を広げている。

「おばさん」世代の私も発言に対して心の「ざわめき」を覚えた1人であるが、この対立構造から抜け出して互いに共創する道を歩めないか、CQを使ってそのヒントを考えてみたいと思った。

日本のジェンダーをめぐる状況を整理した前回に引き続き、今回はホフステードの文化次元で起きている現象を分析したいと思う。

ホフステード文化次元から見たジェンダーをめぐる特徴

オランダの社会学者 ヘールト・.ホフステード博士は、50年近い研究から世界の文化を定量化し、ホフステードの6次元モデルを生み出した。博士は6次元の1つ「生活の質志向(女性らしさ)VS 達成志向(男性らしさ)」の文化次元で、社会がジェンダーと性別役割をどのように捉えているかを特徴づけられることを見出した。

それぞれの志向の特徴について以下のように述べている。(文化次元は連続体であり、国別に0-100のスコアが割り当てられている。どちらかの志向に2つに分かれているということではない。)

 

生活の質志向(女性らしさの強い)社会
男女ともに謙虚でなくてはならない。
男女ともやさしく、人間関係を気遣うことができる。
女の子の美の理想は、両親に影響される
セクハラはあまり問題にならない

達成志向(男性らしさの強い)社会
男性は自己主張が強く、野心的でたくましくなければならない。
女性はやさしく、人間関係に気遣うものであるとされている。
女の子の美の理想は、メディアや有名人に影響される
セクハラは重大な問題である

G.ホフステード et al.「多文化世界 原書第3版」有斐閣

 

ホフステードの次元スコアによると、日本は世界トップレベルに達成志向(男性らしさの強い)社会(スコア95)である。下は世界78ヶ国のスコアをグラフにしたものである。グラフの下の方に位置する生活の質志向(スウェーデン5、ノルウェー8など)と比較して、赤い円で印した日本が際立って達成志向であることがわかる。

画像
データはGeert Hofstede An Engineer’s Odysseyより。筆者グラフ化

達成志向の日本の文化的特徴

日本で今起きていることは、文化の影響を強く受けている可能性がある。ホフステードの挙げた特徴を当てはめて考えると、日本のような達成志向の強い文化においては、次のようなことが起きやすいといえる。

・男性と女性は本来、社会において異なる役割や性質をもつ存在として認識される傾向があり、その結果ジェンダーギャップが広がりやすい

・女性の美の理想は(両親が娘になんと言おうと)有名人など「世間の基準」に影響を受ける傾向が強く、ルッキズムの土壌を兼ね備えている

・ジェンダーをめぐる問題が対立を生みやすい

*注:ホフステードは4ヶ国の学生を対象にした「セクハラ」に関する研究の結果から、生活の質志向の強い文化では、(達成志向の文化に比べて)男性も女性もセクハラが比較的「害がない」と捉えていた点をあげている。

文化は良い悪いではない:時代に合わせてアップデートしよう

ここまで、日本のジェンダーをめぐる状況をホフステードの6次元モデルを使って分析してみた。

私たちは社会や文化に影響を受ける存在だ。そしてその影響は私たちの「無意識」レベルに深く浸透しており、なかなか気づくことが難しい。ホフステードは、文化の傾向は「良い悪い」で判断されるものではない、と繰り返し述べている。文化の傾向は、ある面では有利に働き、ある面では「時代遅れ」になることもある。

私たちは自分に「刷り込まれている」文化がどのような傾向を持っているのかを認識し、それを「良い悪い」で判断するのではなく、時代に合わせてアップデートしていくことが大切だ。

次回はCQを使って「相手の視点」を取りながら「違いと共創」するためのヒントを模索したいと思う。

CQラボ
田代礼子

 

一般社団法人CQラボは、ホフステードCWQの日本オフィシャルパートナーとして、カルチャーに関してトータルな学びを提供しています。CQ®(Cultural Intelligence)とは…「様々な文化的背景の中で、効果的に協働し成果を出す力」のこと。CQは21世紀を生き抜く本質的なスキルです。Googleやスターバックス、コカコーラ、米軍、ハーバード大学、英国のNHS(​​​​国民保険サービス)など、世界のトップ企業や政府/教育機関がCQ研修を取り入れ、活用されています。

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